「技術はある周期をもってスパイラル状に進化する」という．光コンピューティング研究は1980年代の興隆とその後の衰退を経て，最近ふたたび研究発展の機運の高まりつつある．前の周期の光コンピューティング研究の時代を経験した一人の老研究者として，自由な立場から私見に基づいた光コンピューティング研究の史的展望を試み，新たに勃興しつつある今後の研究への期待につなげたい．

1980年代、光コンピューテイングは光の物理的特性を有効に利用した大容量情報処理技術の実現をめざして一大ブームを巻き起こした。画像処理や並列情報処理に対するソリューションとして期待され、多岐にわたる研究が行われてきた。残念ながら、その後のエレクトロニクスの急速な発展に伴い、次第に研究意義が失われ、熱気は冷めてしまった。しかし、歴史は繰り返されることを常とし、新たな光コンピューティングブームが芽生えつつある。本講演では、光コンピューティングの何が人々を惹きつけ、実用化に至るには何が欠けていて、それでも再び期待されているものは何かについて、これまでの研究内容を振り返りつつ、その中で得た経験に基づいて考察する。

互いに結合した縮退光パラメトリック発振器群を用いてイジングモデルの基底状態探索問題を解くコヒーレントイジングマシンについて、原理、実験の現状、将来展望について述べる。

複雑系フォトニクスとは、カオスや非線形力学に関する複雑系の研究分野と、レーザや光学に関するフォトニクスの研究分野が融合した学際的学問分野の事である。例として、戻り光を有する半導体レーザのカオス現象が古くから研究されている。これらの複雑系フォトニクス分野で培われた基礎技術を利用した人工知能に関する研究が近年進展している。その一例として本講演では、複雑系フォトニクスに基づくリザーバコンピューティングへの応用について概説する。

リザーバコンピューティングという新たな計算原理のパラダイムが、信号処理や機械学習の枠組みを超え、応用物理の分野にも渡り注目を集めている。物理系に備わる非線形なダイナミクスを計算機能として活用することができれば、ニューラルネットワークにも比肩し得る処理能力を発揮できるという考え方である。レーザなど非線形光学系によっても実現するリザーバコンピューティングは、シリコンフォトニクスと潜在的に相性が良い。本講演では、IoT社会で必須の技術となるエッジコンピューティングを念頭に、微小光学系ほか、様々な物理素子を利用したリザーバコンピューティング技術の可能性について紹介する。

近年従来のCMOSを用いたコンピューティングは、消費電力とレイテンシの観点で性能が飽和しつつある。この限界を突破する一つの手段として光技術の導入が考えられている。しかし、そこでは単純な９０年代の光コンピューティングの焼き直しでない方向性が必要である。我々は近年急速に進歩している集積ナノフォトニクスの技術を使うことにより、CMOS回路と一体化した光の伝搬速度で実行可能な光電融合型演算回路を一種のアクセラレータとして用いることを提案している。講演では、この方式によるデジタル演算回路およびアナログニューラルネット演算回路への適用可能性について述べるとともに、将来の可能性や必要となる技術について議論する予定である。

我々はこれらの問題を解決するため、III-V族半導体薄膜をシリコン光回路上に貼り合わせた極低消費電力光位相シフタを用いた深層学習用シリコン光回路を提唱し、その実現に向けた研究を進めている。熱光学位相シフタと比較して、消費電力を100万の1以下、動作速度を1000倍以上改善可能であり、深層学習の演算効率を大幅に向上可能であると期待できる。また、我々は従来のマッハ・ツェンダー干渉計ではなくリング共振器を用いた新しい光回路構成についても検討を進めている。本講演では、シリコン光回路を用いた深層学習で期待される演算性能や演算効率、それを実現する上での技術的課題などを俯瞰しつつ、我々の研究取り組みを紹介する。

半導体デバイスの高周波化でミリ波帯を利用した通信システムが身近なものになりつつある。60GHz帯は酸素分子の吸収減衰の大きさから、国際的に免許不要帯域に割り当てられIEEE802.11adに代表されるようなGb/s級の無線通信システムが実用化される時代を迎えている。90GHz帯は60GHz帯よりも吸収減衰が少なく、60GHz帯以上に広い帯域が移動・固定・無線評定業務に割り当てられている。本稿では中・長距離のアプリケーションに適した特性を有する90GHz帯の電波資源とRadio over Fiber技術を組み合わせた滑走路異物検知システムと高速鉄道用の大容量無線伝送システムの開発状況に関して報告する。

本講演では、Intermediate Frequency-over-Fiber (IFoF) とアナログRadio-over-Fiber (RoF) を組み合わせたハイブリッドモバイルフロントホールに関して、Beyond 5G時代に向けた高度化の方向性を紹介する。Beyond 5G時代に想定されるRadio Access Networkの要求性能を示し、それらを実現するために必要となる光デバイスへの期待を述べる。

本稿では、THz無線の最新動向を概観し、その中で、光デバイスが果たす役割とその進展、さらに今後の研究課題について議論する。

著者がかねてから研究を進めている小型高性能ミリ波－光信号変換素子と，5G/Beyond 5G のための光ファイバ無線技術について述べる．ミリ波帯の小型平面アンテナ対と光変調用定在波共振電極とを結合させることで，無給電で高効率に無線信号－光信号変換が可能となる条件を見出した．これを光ファイバ無線技術と融合させると，高密度ユーザ環境5GシステムのフロントホールやIoTセンサシステムで有効な無線－光リンクを実現することができる．講演では，28 GHz帯および60 GHz帯で動作する変換素子の試作・実験結果と今後の可能性について議論する．

半導体量子ドットを利得材料としたレーザは高速動作、温度無依存、低消費電力動作などが期待されている。本講演では半導体量子ドットを利得材料とし、Radio on Fiberにおける光源としての利用が期待されている2波長レーザの開発状況とその特性について紹介する。

我々は，将来のフルコヒーレントネットワーク実現のため，光データ信号からミリ波・テラヘルツ波帯無線データ信号へコヒーレントかつ低遅延に直接キャリア周波数下方変換を行なう手法である，電界効果トランジスタを用いた光ダブルミキシングの研究を進めてきた．InGaAsチャネル高電子移動度トランジスタ（HEMT）を用いた光ダブルミキシングでは，10-Gbps級ASK変調光データ信号からミリ波IFデータ信号への周波数下方変換の実証と，単一走行キャリア・フォトダイオード（UTC-PD）のHEMTへの集積による高効率化を行なった．本稿では，UTC-PD集積HEMT光ダブルミキサのデバイス開発の現状を紹介するとともに，フルコヒーレントネットワークへの適用可能性について議論する．

自動運転やロボット・ドローンの話題と共に，周囲環境の3次元情報を取得するセンサであるLiDARが注目を浴びている．しかし従来のLiDARは機械式の光偏向器を利用する等の理由から，大型，高コストであり，幅広い応用は困難と考えられる．そこで最近，フラッシュ方式，光フェーズドアレイ方式，スローライト方式など，非機械式のLiDARが活発に研究開発されている．本発表ではLiDARの方式，性能と原理的な制約，LiDARを構成する各要素への要求などを解説し，シリコンフォトニクスとスローライトを利用した非機械式による小型ライダを実現するためのチャレンジを紹介する．

夜間遠方の小物体検知を実現する、25万画素の縦型アバランシェフォトダイオード(Vertical Avalanche Photodiode; VAPD)を搭載した遠距離TOF (Time-Of-Flight)センサおよびセンシングシステムを開発した。近方から遠方までの距離画像の取得により、250 m先の10 cm高さの小物体の検知を可能とした。

自動運転の実用化へ向けた動きが本格化している。自動運転はその自動化度合いに応じた段階的なレベル定義がされているが、当面はその中でも、ドライバ責任下での部分的な自動運転を行う「自動運転レベル2」が主流になると言われており、ドライバは自動運転中も運転行動が適切であるかを監視し、状況に応じて運転操作を引き継ぐことが求められる。本発表では、ドライバの集中度合いを評価する指標として実際の運転行動に基づいた指標を定義し、カメラ映像から得られるドライバの姿勢および視線の変化などからドライバ状態を逐次出力するドライバ運転集中度センシング技術を提案する。

本講演では、ミリ波レーダー等に用いられるCMOS集積回路技術について解説する。従来デジタル回路向けのトランジスタであったCMOSが、製造プロセスの微細化に伴い、高周波での動作が可能になっている。他のトランジスタと比較しつつ、動向を紹介する。

「周辺監視レーダ」は，夜間，悪天候時でも車両後方や死角の障害物を検知することが可能である。本稿では、車両への搭載性、角度・相対速度の分解能を高めることで、アプリケーション適用の範囲拡大と、交通弱者保護に寄与することを目的として開発した次世代レーダについて報告する。

電源をシリコン基板上に搭載する技術であるパワーSoCが電源の究極の小型化を達成する技術として注目されている。電源小型化には、その大部分を占める受動素子の小型化が有効であるが、電源を1チップに搭載するパワーSoCでは数十 MHz以上の高周波動作が必要となるため、新たな制御手法の確立やゲート駆動回路の開発が必須となる。
一方、パワーSoCは半導体プロセスを用い作製するため大量生産が可能となるなどの利点がある。しかし、パワーSoCでは、1チップ当たりの電力容量が非常に小さくなるため大電力容量化が課題となる。本稿ではパワーSoCにおける海外の学術・産業動向について報告すると共に、パワーSoC実現に向けた取組について報告する。

超伝導回路を用いた量子コンピュータの研究開発が加速している. Google, IBMや Intelという情報技術・半導体技術の巨人たちが量子コンピュータの分野に参入し, 近年数10量子ビットから数100量子ビットの実装を目指した取り組み例が報告されている. 実用的な問題を解く量子コンピュータの実現には，回路が持つ誤り率が問題のサイズ, 計算ステップ数に対して十分に小さくないとならない. 量子誤り訂正は回路の誤りを抑制する手法である一方で, その導入には厳しい実装上の課題の克服を要求する. 本講演では量子誤り訂正符号の実装を念頭に, 超伝導量子コンピュータの挑戦について議論する.

Analog circuit technology is indispensable for energy-efficient AI computing. In this study, several different types of analog neuron circuits are explored as fundamental constituents of integrated AI circuits. Especially, the analog neuron circuits using the phase transition material VO2 is investigated for several specific functionalities. Such neuron circuits will compensate for the shortage of conventional circuit-based neuron circuits and provide alternative option for energy-efficient AI computing in the future.

先進運転支援システム(ADAS)や自動運転システム(ADS)により、自動車向けの半導体に対する要求も高まっている。ADAS/ADS向けの半導体は従来の車載半導体と同様に高い信頼性と低い消費電力が求められる。加えて、演算性能は従来のものより遥かに高いものが求められる。

一方、ムーアの法則の限界が唱えられて久しく、実際に微細化のペースの鈍化や、従来微細化により得られていた高性能化、低消費電力化の恩恵が得られにくくなってきている。本発表では、ADAS/ADS 分野の技術動向の紹介を行ない、半導体システムの現在の状況と今後の展望を述べる。

導電性ポリマーはπ共役電子を骨格に持つ一次元高分子である。π電子の酸化・還元によってこのポリマーは絶縁体から金属状態に変化し、多様な性質と機能を発揮する。この特異な性質から、光、電気、運動、熱、化学など様々なエネルギー状態間のトランスデューサとして働く。本講演では、導電性ポリマーによる電気から運動へのソフトアクチュエータおよび化学から電気への燃料電池、について最近の研究成果を基に解説する。

炭素系電子工学材料として期待されているグラフェンに溶媒親和性を付与する検討を行った。欠陥フリーを目指した穏やかな酸化では残念ながら、単層剥離に至らなかったが、親水性を有し、還元することなく高い電気伝導性を有する親水性グラファイトを得ることができた。
また、GOの化学反応適用性を利用して、フッ化アルキルを導入することで高撥水性導電膜を、炭素数４と18のアルキル鎖を導入することで、ガス種に依存して抵抗変化率の符号の異なる材料を合成することができた。

我々は、グラフェンの優れた光学特性を活かした高性能光センサの実現を目指している。しかし、グラフェンの光吸収率は 2.3%と低いため、高感度化が主要な課題となる。これまでプラズモン共鳴構造によるグラフェンの吸収増強、PN 接合形成による取り出し効率の向上、光ゲート効果、その発展である電荷注入構造など、様々な高感度化手法を可視～長波長赤外線波長域において検討してきた。今回の講演では、光ゲート効果を赤外線波長域において応用し、通常のグラフェン赤外線検出器と比較して100 倍以上の感度、一般的な量子型赤外線検出器と比較して10 倍以上の感度を実現した高感度グラフェン赤外線センサについて述べる。

有機無機ハイブリッドペロブスカイトの有機分子にピリジン誘導体などを用い、合成条件を制御することで、数mm から数 cm におよび板状および針状結晶の作製を行った。熱電変換素子への応用を目的として、電気伝導度、ゼーベック係数、熱伝導度の計測を行った。

抄録*Summary

一つの分子をナノギャップ電極間におき、半導体として用いる単一分子トランジスタについて報告する。ナノギャップ電極は、電子線リソグラフィを用いて10nm程度のギャップ長を有する白金電極を作製し、その表面に無電解金めっきを行うことにより、分子長と等しいギャップ長（数nm）を有するものを用意した。ギャップ間に、π共役系分子を固定し、プローバーとソースメジャーユニットを用いて、ドレイン電圧、ゲート電圧印加時のトランジスタ特性を測定した。単一分子トランジスタは、ゲート変調動作を示し、On電流は共鳴トンネル効果により流れることが明らかとなり、分子共鳴トンネルトランジスタとして動作する。

クラウドサービスの利用拡大により，引き続きデータセンタ間のトラヒックは急激に伸びており，大容量のトラヒックを効率的に流通させるために光伝送の活用が重要視されている．データセンタ間の光伝送のために用いる伝送システムには，より省スペース・省電力が求められることから従来のネットワークオペレータの用いる中継ネットワーク向けの伝送システムとはまた異なった要件に基づいている．
本稿では，データセンタ間向けの伝送システムと中継ネットワーク向けの伝送システムの差分について触れつつ，NTTコミュニケーションズのデータセンタ間伝送システムの現状と課題について述べ，さらに今後の光伝送の要素技術の技術発展により期待したい点について述べる．

近年クラウドコンピューティング等の進展により、大規模データセンター（以下、DC）の建設が進んでいるが、伝送容量の増大に備えるべく、DC間を結ぶ光ファイバケーブルの多心、高密度化の要求が高まっている。このような状況下、DC間を繋ぐケーブルは主に屋外ダクト内に配線されるため、限られたダクトスペースに光ファイバを高密度に詰め込む技術が重要である。そこで、柔軟性と一括接続性を両立する間欠12心テープを用いることで、光ファイバケーブルの高密度化、多心化を行うと共に、今回は中心にテンションメンバを有するスロット型構造を採用することで、曲げ方向性無く、可撓性に優れた光ケーブルを開発した。

光ケーブルの超多心化、高密度化に伴い、光クロージャや光融着架も同様に超多心化、高密度化が要求されている。また、多心接続作業には膨大な時間がかかる一方、データセンタ内やマンホール内等での作業可能な時間は限られることが多く、短期間での開通作業が要求される。そこで我々は超多心、高密度収容可能でかつ施工時間短縮が可能な高密度光クロージャ、高密度光融着架、SWR/WTC プレ成端288 心光パッチパネルの開発を行った。

データセンタ間通信では、これまでは安価にシステムを構築できる強度変調・直接検波（IMDD）方式が採用されてきたが、より大容量通信が可能な方式としてデジタルコヒーレントシステム導入の検討が進んでいる。本稿では、まさに通信方式のシフト期にあるデータセンタ間光通信の光アクティブデバイスを実現する技術について、これまでに我々が取り組んできたIMDDおよび位相変調用の光デバイスを例に挙げて紹介する。

Data center (DC) is expanding rapidly, driven by constantly increasing capacity needs due to continuous deployment of new infrastructures and services. Both intra- and inter- data center interconnects (DCIs) are facing energy-capacity crunch with explosive traffic growth. As a disruptive technology, silicon photonics (SiP) is anticipated to provide energy-efficient and large-capacity optical interconnect solutions and believed more competitive for inter-DC interconnects as the data rate and link distance continue to increase. This paper is to address the SiP superiority and prospect as well as challenges for DCI from modulator point of view and to show silicon modulators will continue to support bandwidth growth.

世界のインターネットトラフィックは増加の一途を辿っており，インターネットサービスを支えるデータセンタにおける光通信の高密度化，高速広帯域化，長距離化，低消費電力化が求められている．本稿では，データセンタ間通信における高密度実装や消費電力低減のための空間分割多重（SDM）技術の適用可能性について考える．

クラウドコンピューティングでは，動画配信，webアプリなどのインターネットサービス，古典的な科学技術並列計算やデータ処理，DCP(Business Continuity Plan)/DR(ディザスターリカバリー)処理など，異なる計算と通信精度の要求を持つアプリケーションを実行している点が特徴である．本講演では，クラウドコンピューティングを支えるデータセンター(DC)間の通信について，精度に注目した議論を行う